◎辛い、なんて言葉知らない


第三者視点/短いので移動しただけです


 マツバはミナキを不思議な人だと思い、またミナキもマツバを不思議な人だと言う。それはお互いが同じように情熱を捧げる対象があるからこその疑問である。マツバは会いたいが為に一箇所に留まり続け、ミナキは会いたいが為に各地を走り回る。噛み合える筈のない歯車なのだ。お互いを理解する事など不可能なのだ。情熱を捧げる対象達が関わり合っていたのだから必然として出会うことはあった。だが、それ以上に深入りすることは無かった筈だ。なのに彼らは親友となり、恋人となった。それは運命なのか。必然では無かった筈だ。歯車は噛み合わない筈だったのだ。
「私はマツバの全てを理解できるとは思わないが、別に全てを理解する必要は無いだろう。」
「そうだね。僕らは理解しあえないままがいいんだ。」
 彼らは現状維持を望んだ。歯車は噛み合わない。元々型が違う二つは噛み合う筈がない。それらが共に歩もうなどとは、ああ何と滑稽。
「そう、それでいいんだぜ。」
「寂しくないかい」
「マツバはどうなんだ」
「これっぽっちも辛くないよ」
 滑稽な歯車は噛み合わないままくるくると空回りを続けるのだ。



辛い、なんて言葉知らない
(ならそれでいいじゃないか!)
(うん。そうだね)

不思議なあのこと6題
劣情ノイズ


12/04 02:37
- ナノ -