◎花が開く瞬間を見た僕とその目を覆ってくれた彼


マツミナ/花が開く瞬間を見た僕とその目を覆ってくれた彼


 花が柔らかく温いの土から芽吹き、穏やかな日の中で育ち、蕾をつけた。日に日に大きくなる蕾の先がほんの少し白くなったら、もうほころぶのはすぐだった。白に黄色の木春菊。その香りが鼻を掠めたような気がした時には僕の目元は覆われていた。あたたかい人の体温がする両手。誰かなんて深く考えなくとも分かる、慣れ親しんだ体温。
「もういいんだ、マツバ。」
 僕の目元を覆ったままにミナキ君はそう言った。しとしとと目元が濡れる。これは僕の涙だ。ゆっくりと溜まった涙はミナキ君の両手からも零れて、僕の頬を伝う。
「もう見なくていい。」
 そう言うミナキ君の声は震えていた。きっと彼も泣いているのだ。僕も彼も同じ人を思って泣いているのだ。
「あの子は立派に成長したんだ。」
 僕の崇拝した虹に選ばれたあの子は、彼の願った北風に選ばれたあの子は、チャンピオンとなったのだと。
「だから私たちはもう安心すればいいんだ。」
 彼の手が震えていた。僕の涙は止まらない。残酷だと思うより、無常だと思った。結局、僕らは選ばれなかったし、僕らは未熟なままなのだ。
 手を動かして彼の両手を目元から離し、手を握って彼と向き合う。真っ赤な目をした彼はもう涙を流してはいなかった。彼は不器用に微笑む。
「いい思い出にするんだぜ。」
 いつかなんて未来への懇願ではなく、今この瞬間からだと彼は告げていた。それは割り切ることしか出来ない僕らが、惨めにならないための最善策だ。だから僕も笑う。
「あの子とまた会う日に心から笑えるようにしようか。」
 ミナキ君はゆっくりと頷いた。


11/28 00:53
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