◎皆既月食


マツミナ


 月が欠けて行く。やがて月は赤くなり、僕とミナキ君を照らすのだ。
「美しいな。」
 感嘆のため息を漏らすキミに、そうだねと返せばキミは苦笑を零した。
「だが、少し恐ろしい。」
 そう言うとそれを誤魔化すように今夜のお月見山はどうなっているのだろうと告げられ、僕は穏やかに言った。
「僕は恐ろしくないよ。」
 ふわりと笑えば、穏やかに笑い返してくれるミナキ君がいた。
「それなら怖くないな。」
 もう怖くないと繰り返すミナキ君の手をそっと握り、きゃっきゃと騒ぐポケモンたちを見る。これまでもこれからも僕らより長く生きる彼らであっても、今夜の月は特別なものなのだと明快に思えた。ミナキ君が僕の手を解き、しっかりと指を絡めてくれる。
「赤い月も良いのかもしれないな。」
 そんな言葉に、僕は笑って頷いた。


10/12 01:22
- ナノ -