◎密告者は喰べられた@病んでる


密告者は喰べられた/マツミナ/食虫植物/病んでる


 この花は蟻を食べるのだと。

『密告者は喰べられた』

 恙無(つつがな)く、恙無く。僕は平穏な日々を過ごしている。遠くを駆けるきみは平穏無事だろうか。
 便りが無いのは元気な印ではあるかもしれないが、万が一だってきみの旅にはごろごろと転がっているだろう。そんな万が一を僕はふとした拍子に不安の種にしてしまうのだ。
 かつて、幼いきみが僕の家へと遊びに来た時に、きみはとても無茶をして祖父達にこっぴどく怒られた。その無茶は本当に危険なことで、幼い僕の心の深くに不安の根を張ったのだ。
 三つ子の魂百までと言うけれど、それに近いものなのだろう。幼い頃の衝撃的なそれは僕の人格を形作る際に大きな働きをした。
 けれど僕は心配性になったわけでない。ただ、きみという存在に対する不安だけが変異した。きみがいつも何か僕が不安と思うことと隣り合わせなのだと、いつも感じるようになったのだ。
 だいたい、不安ひいては危険なんてものは全ての生き物に平等に与えられているものだ。平等を嫌う人でも、それはいつか必ず痛感するもので、どんな生き物にも大小様々な不安と危険を隣に持っている。
 その認識が、僕の中で変異したということだ。
 きみという存在に対して、僕はそのありふれた事柄を強く強く認識するようになったのだ。そして僕にとってのきみへ不安が、僕の中の歪となった。

 優しさや、悲しみや、怒りの全て。それら全てを僕はきみに起こるのが不安に思うのだ。

 幼い僕は何の方法も知り得なかった。何かがきみに起きては、喜怒哀楽をしどしどと心に降り積もらせるだけだった。だから僕は努力したのだ。全てはきみのために。きみから全ての喜怒哀楽を遠ざける為に。きみに平穏を与える為に。
(だからね、僕は何の戸惑いすら持た無いよ)

 虫を食べる植物を、貴方は知っているだろう?


09/14 23:36
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