◎飾られた世界が微笑ってる*ベル


ベルの話/偉大なる少女に喝采を/捏造



 与えられた幸福から手を離すことはあまりにも難しいことなのに、全てを諦めてしまえばとても楽になる。

 ベルという少女は一般家庭の出身だ。両親から愛されて育った彼女には幼馴染もいた。彼女は門限を守り、遊ぶのは両親の目が届く場所だけ。それをある時まで、気にもしなかった。幸せだったのだ。例えそれがただの束縛であったとしても。
「旅に出たい」
 彼女は両親に打ち明けた。幼馴染たちとの鮮やかで幸福な約束。母親は寂しそうに、だけども嬉しそうに背中を押した。問題は父親だった。
「ベルにはまだ早すぎる」
 甘やかな呪縛を、ベルは初めて思い知ったのだ。与えられた幸福がどれだけ大きなものであり、それが呪いの枷であることを彼女は知った。ベルは迷った。パパがそう言うのならそうなのかもしれないとすら思った。しかし彼女には幼馴染がいた。
 幼馴染達はすぐにベルの状況が分かった。彼らはずっと不思議に思い、知っていたのだ。彼女が愛の名の元に制限されているということを、彼らはよく分かっていた。
「ベルは親離れしなくちゃ。もちろんパパさんも子離れを」
 幼馴染達はそう言ってから自分たちの家庭を話した。危険なことをしたら怒られる。けれどそれをするためのもっと安全な方法を教えてくれる。門限はあるけれど、事前に交渉すれば延びるもの。お友達の家へのお泊りだってしてもいいと言ってくれる。
 ベルは驚いた。自分の知らない彼らに、ショックを受けた。だから彼女は悩んだ。悩み、呻き、決めた。
「わたしは、パパが思っているほど何もできない子どもじゃないんだ」
 己の為と父親の為に。幸福たる愛から手を離すことを決めた。それは自ら呪いの枷を砕く決心だった。

 それから彼女は父親の反対を押し切って旅立つ。初めて、タウンから離れる日。
「みんなで一緒に初めの一歩を踏み出そうよ!」
 全てを諦めなかった少女が踏み出した軽やか一歩は、彼女の枷が外れた音だった。



title by.恒星のルネ


08/26 18:39
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