◎名前などは必要なく


 私たちの中に泥縄のような友情は無く、息苦しいような愛情は無く、ただ妙な仲間意識があった。スポーツに身を捧げる私、デザインに身を捧げるマーシュ、料理に身を捧げるズミ。私たちはそれぞれ違う方向で身を捧げている、そんな仲間意識なのかもしれない。
「名前を付けるなんて無粋やないの」
「無粋、ですか」
「ただ一緒に居る、それだけで良いもの。ふんわりはんなり、曖昧で不確かなんも良いものですえ」
 マーシュがにこにこと笑って言うから、私は何と無くそれでいいのかもしれないと思った。何と無く、マーシュの言葉には説得力があったのだ。ズミがそっとキッチンから料理を運んでくる。
「私も別に白黒付けたいと思いませんよ」
「あら、ズミはんも?」
「意外ですね」
「まあ、意外だと思われるのも無理はありませんが。でも名前の必要性が思い浮かばないので」
 その言葉に、確かにと納得する。名前がなければ崩れてしまう関係ではないし、名前がなくては困るほど私たちは幼くない。ならば、良いのかと最後の石を手放した。落ちる。落ちて行き、地面に足を着く。しばらくは大丈夫。
「あなたたちと出会えて良かった」
 ありがとうと続けると、二人は私たちもだと笑った。


04/05 01:15
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