◎「ねえ、教えないでいて。」


※ホラーっぽい



その言葉に、僕はぴたりと動きを止めた。彼女は彼女らしくない妖艶な笑みを浮かべていた。つうっと背中を汗が伝うような、ざわざわと悪寒がするような、そんな不安が僕の心を埋め尽くす。そんな僕に構わずに、彼女は続けた。

「私、知っているんです」

何を、とは言えなかった。平常心を保とうと必死で、同時にカタカタと震える手を押さえるのに必死だった。
彼女は続ける。

「あなたも望んでいるんですよね」

違うと叫ぼうとして、ヒュッと呼吸音が部屋に響く。彼女は珍しく口紅を塗っていた。それは紫色をしていて、紫と黒が基調のファッションの型枠に沿っているようで、彼女の中身に釣り合わないと思っていた。だが、今目の前の彼女には紫色の口紅が恐ろしく似合っていた。

「大丈夫ですよ、私はどこにも行きません」

だから安心してくださいと、彼女は笑む。妖艶に、笑みを浮かべる。僕の手を取る、もう片手で僕の、首を。

「大丈夫ですよ」

彼女は笑っていた。





「ねえ、教えないでいて。」
(恋人にならずにいたいシキミさんと)
(被害妄想ギーマさん)
水魚


01/29 04:53
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