◎ディナー


チリオモ


「総大将のサインがいるもんはこの山な」
「はい」
「こっちは目を通す資料で、」
「はい」
「これはいらんからチリちゃんがはねとくから、気にせんといて」
「分かりました」
 オモダカが執務室に来たのをいいことに、チリと秘書たちがてきぱきと仕事環境を整える。さらさらと書類を片付けていくオモダカの決断は早く、正確だ。
 判断が早いのは助かる。チリもまた、サクサクと資料を手にした。

 そういえば、とオモダカが仕事をしながら言う。
「来週の週末の夜は空いてますね。他地方のチャンピオンからディナーの打診を受けました。もちろんお受けするつもりです。パルデアの方でお迎えするので、どこのレストランが良いでしょうね」
「今ならベイクタウンのレストランがいいんとちゃいます? 改装が終わったところ、あったやろ」
「それは妙案ですね。そうしましょう」
「ほな予定詰めとこな」
「頼みますね」
 しかしオモダカとディナーとは、誰だろうか。他地方のチャンピオンを思い浮かべては、誰なのか分からないとチリは息を吐く。
「時にチリ」
「なんや?」
「今日は打ち合わせに、ディナーに行きましょうか」
 今、決めたレストランに、連絡と共に。
「急ですから、なにかと直接話し合うべきでしょう?」
「そうやろなあ」
 オモダカとのディナーに、心が弾む。単純だと言えばいい。チリとて、恋人とのディナーに浮かれる人間なのだから。
「ああ、チリの予定は空いてましたか?」
「あっても空けるわ!」
「それは嬉しいですね」
 ふふと笑うオモダカと、微笑ましそうな秘書たちに、チリは次の資料やでと紙切れを渡したのだった。


03/02 22:11
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