◎ことば


チリオモ


 言葉とは肌を撫ぜるもの。その核心を掴むための装置。オモダカはそれをよく知っている。
 彼女は人生において、大きなターニングポイントそのものだ。
 チリが従うのは、それらがうまく噛み合ったから。最も必要としたときに、オモダカが現れた。
 パルデアの大地を強くするため、彼女は化け物になる道を選んだ。
 チリは真人間だ。オモダカは、化け物だ。とある人がこう称した。その陳腐なパパラッチに、チリは目をやることすら面倒だった。ただ、オモダカはその記者にすらパルデアの愛を注いだ。結果として、それは記者にとって最大の代表作を生むことになった。雑誌の一面を飾る、そんな記事を担当する様になった。
 オモダカは化け物だ。パルデアの人々は心の底で皆思う。化け物、人ならざるもの、おそろしいもの。
 だが、他の地方から来たトレーナーはこう言った。
「まるでかみさまみたいだ」

「チリ、明日の予定ですが」
「チリちゃんは空いとるでー、ポピーのお迎えやろ?」
「はい。親御さんとの定期会もありますので、よろしくお願いしますね」
「ちゃんと会場まで送ったるさかい、総大将も気ぃつけぇや」
「そうしますね」
 オモダカは意外と普通の人だ。チリにとって、オモダカは手の届かない星ではない。たまにキラーメが髪で遊んでる。それから互いを助け出すのは、チリの役目だ。オモダカは演出に長けている。他人から見て、弱点のない完璧な存在を演出することによって、交渉をスムーズに行うのだ。
 真の意味で、オモダカの近くにいる人たちはそのことをよく知っている。だから、少しだけ、心配にもなる。オモダカは知ったことではないと、今日も無茶をするわけだが。
 相手に伝わらない心配ほど無為なものはない。でも、オモダカは演出家として、パルデアの強さのために奔走するのが好きらしい。
 いつか、オモダカがその強さを全うし、全てを終えたら、その時は、チリを連れてどこかに消えてしまってほしい。チリは彼女の逃避行ならば、どこへでもついて行ける。
 いつかの終わりを、チリは望んでいるのだ。
「神なんぞにさせたらんよ」
 人として、生き残ってしまえばいい。


02/18 20:40
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