◎主従


チリオモ


 パルデアリーグの部屋の中、オモダカが一人、すらりと立つ。チリは声をかけて入室し、たったかと近寄った。
「総大将、予定の相手、来ないらしいで」
「ええ、流行病でしょう。できれば話を聞きたかったですが、悪化したのなら仕方ありませんね」
「病人を振り回すのはどうかと思うんやけど」
「しかし、私が出向くわけにもいきませんから」
「そら、トップチャンピオン様やからなあ」
「医療チームとの面会を検討しましょう」
「ほな、秘書さんたちに伝えておくわ」
「よろしくお願いしますね」
 彼女が好きに動く時期より、ある程度周囲に頼る時期があると助かる。たまに本当にお転婆なオモダカを、チリは厄介だと思っている。同時にトップチャンピオンはそうでなくてはという納得も得る。
 オモダカが規格外であればあるほどに、パルデアは強く育つのだから。
 そして、それこそがオモダカの願いなのだ。チリはその思想について行くのみである。この若きこうべを垂れた瞬間を、今でも鮮明に覚えている。
 あれた学校。その中を生きて行く図太さと世渡り。へらりと笑って流す有象無象の中で、立ったのはまだ少女の面影を残す目の前のこの人。
 出会ったその瞬間、試合をして、完敗した瞬間。そして、手袋を渡されたあの時の微笑み。あなたなら、私について来れる。その、彼女の確信を、チリは信じた。
「明朝に会議を」
「はあ? そんな時間って」
「可能です。一刻も早く対応する必要がありますから」
「あーもう、医療チームだって疲弊しとるんやから」
「それでも手が回るように組織を作らなければ意味がない」
 そうでしょう。オモダカの微笑みに、チリは呆れた。本当に、操作が効くと思ったらすぐにこれだ。お転婆だこと。
「ホンマ、そういうところが皆に嫌がられるんやで」
「チリは嫌がらないでしょう?」
「まあなあ」
 それならば問題はありません。オモダカの主張に、チリはため息と共に湧き上がった優越感をひとつ、飲み込んだのだった。


02/09 15:15
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