◎ゆうげん


チリオモ


 うっすらとした靄が広がる。チリはふうと息を吐いた。
「総大将、そろそろ呼び出しやで」
「もう少し、ここにいます」
 パルデアリーグの最上階。早朝のそこで、オモダカはパルデアを眺めている。景色は悪くはない。チリはその良し悪しに感想などない。パルデアとは、オモダカのものだからだ。
 従うと決めた人の、その大切なものを無碍にするほど、チリは行儀が悪くない。
「そろそろ朝日が昇りきります」
「せやな」
「今日も良い日になります」
「総大将が言うならそうやろな」
「はい」
 オモダカはシャンと立っている。夜露を払い、朝靄を纏い、その体に宇宙を秘める。
 強いひと。誰よりもパルデアの強い未来を求めるひと。それは本当に人間の範疇なのか。
 少し、考えてしまった。チリがもう一度オモダカを見ると、彼女はまたパルデアの景色を眺めていた。
「空を飛びたいですね」
「仕事がたんまりあるで」
「ではそれを片付けましょう。夕陽の中を飛ぶのも悪くありませんよ」
「そんな時間に終わるんかいな」
「では夜ですね。夜景もいい」
「あーもう、好きにせえ」
 言うことを聞かないひと。そんなことは分かり切っている。チリが息を吐くと、オモダカが振り返った。
「チリ、今日は晴れますよ」
 そんなにおいがします。トップチャンピオンの嗅覚なら、きっと当たる。チリは今日の天気予報を全て忘れて、すいっとオモダカに近寄る。
「夜景なら、チリちゃんが見せたるよ」
「おや、それはいいですね」
 良いデートになりそうです。ふふと笑うオモダカに、チリはさっさと仕事終わらせましょと笑った。


02/03 13:38
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