◎ひとこと


チリオモ


 たった一言で世界が変わるなんてありえるのか。チリは思う。そのたった一言で世界を変えられたのだ。

 パルデアリーグ。職員たちに混じって、チリは書類を捌いていく。あれこれと選り分けて、オモダカのサインが必要なものを揃える。
 たったと音がした。ざわりと事務室がざわめく。オモダカがリーグに帰還したのだ。
「ただいま帰りました。執務室にいますので、必要ならばご連絡をくださいね」
 オモダカはそう言ってさっさと執務室に向かう。その背中を何人かの秘書が追いかけた。

「総大将、書類持ってきたで」
 執務室に向かえば、オモダカは一番乗りですねと微笑む。手には報告書の類が詰まっていた。
「サインが必要な事務書類な。念のため確認しながらよろしくお願いしますわ」
「はい、そこに置いてください」
「了解。で、総大将は腹とか空いてます?」
「お腹、ですか?」
 はてと首を傾げるオモダカに、チリは水筒を見せた。
「ガスパチョ作ってきたんやけど」
 いります? と笑えば、欲しいですとオモダカは目を輝かせた。

「チリのガスパチョは美味しいですね」
 ふわふわと笑うオモダカは書類整理の手を止めている。チリはそらよかったわと返事をした。
「最近詰めとったやつ、どうなったん?」
「セルクルタウンの菓子祭りですね。ムクロジから正式な申請が来たので許可を出しましたよ」
「お、良かったん?」
「ええ。カエデが仕切るなら間違いはありません。最初はあまり乗り気ではなかったですが、街の活性化のためなら、と」
「ふうん」
「ジムリーダーは街を導く星でもあります。カエデにも分かっていただけたようです」
「それはどうなんやろ」
「厳しいですね」
「やって、生半可な覚悟なんていらんのやろ?」
 なあ、トップチャンピオン。そう告げれば、オモダカはカップのガスパチョがなくなってしまいましたと笑っていた。


01/19 19:51
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