◎幸福だと知っている。


トウトウ/トウコ=バトルサブウェイのあの子


 この駅から出られなくても、この出会いが全てを運命付けても、良かった。ただ、輝くようなあなたに会えたから、私は幸福なのです。

 本音を言うと、怖いんだ。トウコは言う。
「私はトウヤじゃなかった」
 でも、それ以上に嬉しかった。
「トウヤに会えて、良かった」
 トウコがそう言うと、トウヤはミックスジュースの缶を手にへらと笑う。
「そうかな」
「うん。そうなの」
「嬉しいや」
 僕はね、トウヤは言う。
「ここにトウコを閉じ込めたのは僕だったから、少なからず、きみに罪悪感がある」
 それ以上に。
「でも、トウコと出会えるだけでも、こんなに嬉しいから、罪悪感が吹っ飛んじゃう」
 ねえ、トウコ。トウヤは言う。
「トウコが幸福であれば、僕も幸福だよ」
「そういうところが、英雄だね」
「トウコは知らないだろう?」
「うん。英雄なんて知らないよ」
 私の世界は、この駅の中だけ。トウヤが選ばれた時点で、私の世界は決められたもの。絶対に変わらない、普遍の事実。私は駅から出られない。
「明日も来ていい?」
 その明日すら、分からないのに、トウヤは言う。
「明日も会いに来るよ」
 だから、トウコは応えるのだ。
「待ってる」
 絶対なんて、可哀想なことは言わない。このちっぽけな英雄の、ただびとでいられるこの瞬間を壊さない。大好きだよ、トウヤ。トウコは胸の中で語る。
 今日も電車は回る。ああ、懐かしい匂いがする。トウコがトウヤにそっと寄りかかると、トウヤはしっかりとトウコの手を握ったのだった。


06/08 18:10
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