◎匙一つ


キバネズ


 匙一つ、あまいミツを垂らして。

 ハニートースト。あまいミツに塗れたそれを、キバナが食べている。甘すぎませんか。そう問えば、糖分補給と言われた。
「まあ、精製砂糖よりは体にいいでしょうけど」
「だろお」
「お疲れで?」
「夜通しワイルドエリアで見回りだったんだぜ」
「それはお疲れ様です」
 ついでにエネココアでも飲みますか。ネズがくつくつ笑うと、流石にそこまでじゃないとキバナは疲れ顔だ。
「明日もなんだぜ」
「おや、担当が捕まらなかったんです?」
「たまごから孵化したばかりのモノズを育ててる人がいて、どうしても予防接種の日程がさ」
「ああ、まあ、そういうこともありますね」
 そりゃしょうがない。ネズは素直にキバナを労わることにした。
「ともかく、食べたら家に帰って寝なさい」
「家、だれもいないもん」
「おれが行きましょうか」
 ぴたり、キバナが止まる。
「いいの?」
「ええ、構いませんよ」
「え、え」
「たまには人を甘やかしたくなるんですよ。世話になりやがれ」
「や、やった!」
 ありがとうネズ。そうキバナがぱっと笑うと、ネズは穏やかな心地で、コイツ疲れてて判断おかしくなってるなと思っていた。


03/16 23:57
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