◎星の祭典に願いを込めて


キバネズ


 わたしたちの信じ給うた愛に信仰はあるか。

 英雄が王を選ぶ。ホップと新チャンピオンに跪いた英雄に、ネズはこれぞ新世代だと、直感した。そして、己の幕引きは正しかったと、心を整理できた。

 しばらくは、ネズも不安な日々が続くだろう。だが、新たな世代はあまりに心強かった。マリィが声をかけてくる。
「チャンピオンになるけん」
 絶対。そう輝かんばかりに笑ったマリィに、ネズはそれは楽しみだねと、くしゃり、笑った。

「英雄は、ダンデとローズさんを選ばなかった」
 ナックルの奥、バーの隅。キバナは語る。静かなレコードは、此処にしては珍しく掠れ気味だ。
「眠ってた英雄を彼らの意思を無視して揺さぶり起こしたのは、シーソーコンビだったかもしれない。でもやっぱり、選ばなかった。選んだのは、新世代だった」
 オレはどうすればいいんだろうな。珍しく弱気な男に、ネズはそうですねえとくつくつ笑った。
「いつも通りでいいんじゃないですか」
 ぱちり、キバナが瞬きをする。ネズは軽やかに、歌うように言う。
「おまえが今まで、がむしゃらに食いついていた相手は、もうリーグにはいねえんです。だったら、新しい相手を見い出せばいい」
「ネズのこと?」
「おれは引退した身ですから。さて、おまえに一等似合うライバルはいますか?」
 キバナは眉を下げる。
「わかんない」
「本当に?」
「だって、倒したいと、ほんとに思えたのはダンデで。これから目指すべきは、ネズだって思ったから」
 二人共、オレをおいて行った。そっとジュラルドンがキバナに寄り添う。タチフサグマがネズの肩に擦り寄った。
「でも生きてるでしょう」
 分かりませんか。
「おまえが惚れたトレーナーたちは、まだ生きてる。再戦の機会なんて、いつでも得られるんですよ」
 ねえ、キバナ。
「ガラルスタートーナメント、楽しみですね」
「え、」
「招待されたので。ま、あのダンデの発案なら大丈夫かと思ったんでね」
 ガタッとキバナが立ち上がる。
「ほんとに!?」
「嘘なんて言いませんよ」
「じゃあまた、戦える?」
「トーナメントに行けばね」
「絶対、絶対に戦ってくれ!」
 オレ、まだ頑張るから。キバナが言うのを、ネズは、情熱的なトレーナーだこと、と喉を鳴らしたのだった。


03/12 21:33
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