◎みそらよりたまいしは


キバネズ


 守りたかった。守れなかった。でも、最後に笑ってくれた。
 マリィ、それはネズの光だ。何もネズに授けなかったかみさまとやらの、唯一寄越した黄金より尊い光だった。
「どうか、マリィが幸せでありますように」
 ネズは毎晩同じことを祈ってから、眠りにつく。
 今日より明日、明日より明後日、マリィが強く優しくしなやかに育つことが何よりも望みだった。
 それは、いずれ己のジムを継ぐ人材であるからではない。ネズより才能豊かな彼女の、その天性に開花してほしかった。
 ネズの、ジムリーダーとしては望まれない、歌の才能。そんなちっぽけなシンガーの、頼りない願い事は、どれだけの価値を以ってかみさまとやらに届くのだろう。 

「願うなら、自分で叶えるって言うかと思った」
 ネズはリアリストなのに。キバナが不思議そうに言う。恋人に落ち着いた彼は、ネズの寝る前のお祈りを見て違和感を感じたらしい。
「ええ、自分のことならね」
「マリィは違うって?」
「あの子は神がこの町に給うた子ですから」
 その線引きは残酷だろうか。冷徹だろうか。ネズには、わからない。
 きっと一生分からないままだ。
「マリィは人間だよ」
「ええ、そうですとも」
 おれの愛しい妹よ。ネズは下ろした髪の隙間から笑みを覗かせる。ぞくりと悪寒を覚えるのは、彼があくタイプ使いだからだろうか。でも、キバナにはただ、美しく見えた。

 ネズは知らない。マリィが同じように天に兄の息災を願うことも。キバナが二人で共に幸せになりたいと願うことも。何も知らない。
 だからこそ、ネズは無垢だ。無垢ゆえに、天から賜りしマリィ(いもうと)を純に愛する。
「明日、晴れたら子どもたちが集まるんですよ」
「オレさまもティータイムにお呼ばれしていいのか?」
「勿論。ただ、ホスト側ですよ。もてなさなくてはね」
 町の宝であるマリィの、小さなお客様たちに、価値にふさわしい歓迎を。ネズが笑えば、キバナはその髪を掻き分けてキスをひとつ、頬に送る。
「手伝うぜ」
「当然です」
 メニューはもう決まってますからね。ネズは月光の中で、いつまでも笑っていた。


01/21 14:43
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