◎クリスマスの朝に


キバネズ/テスト配信/クリスマスネタ

 肺が凍りそうな朝だった。のそりと起き上がり、時計を確認する。アナログな時計は午前四時を指している。外は暗い。だが、冷たい空気が心地良くて、ネズは微笑んだ。

 タチフサグマが寝ぼけてベッドサイドに転がっている。彼にしては珍しい。いつも大人しくて、トレーナーに忠実で、存外きれい好きな彼の、幼い頃のクセを垣間見ることが出来た気がした。あくタイプの縄張り意識がこうも削がれていると、少しだけ不安になる。まあ、彼にとってネズは縄張りの範囲内なのだろうけれど。
 おまえもまだまだ子どもですね。ネズはゆったりと彼の白黒の毛並みを撫でてから、そっと離れた。

 キッチンに入ると、まずヤカンで湯を沸かす。ミネラルウォーターは冷蔵庫の中。二人分程度の湯を沸かしている間に、茶葉をティーポットにたっぷり入れる。
 昨日のうちにベーカリーで買っておいた惣菜パンをオーブンで温める。
 ミルクティーが淹れ終わる頃、コンコンと玄関扉がノックされた。

 ネズは躊躇なく扉を開く。そこにはロードワークの寄り道らしいキバナが立っていた。
「おはよう、ネズ」
「おはようございます」
 ミルクティーでも飲みますか。ネズが戯れに問えば、そりゃいいなとキバナは嬉しそうに笑っていた。

 ミルクティーを飲んでいると、タチフサグマが起きてくる。朝日が登ってきたとはいえ、フーズを出すにはまだ早い。タチフサグマを撫でていると、仲良しだなとキバナが目を細めた。
「おまえだって、ジュラルドンと仲が良いでしょう」
「うん。一番のパートナーだ」
 キバナはそう言って、ジュラルドンの入ったモンスターボールを愛おしげに撫でた。

「そういえば、今日はクリスマスですね」
「ああ、うん」
 キバナは、そのことだけどと、提案した。
「クリスマスディナーとか、どう?」
「へえ、そりゃまたどうしてです?」
「オレさま、ナックルでサンタの格好してイベントに出るんだよ。夜しか空いてなくてさ」
「なるほどね。おれはライブがあるぐらいですかね」
「ほぼ連日、休まずだもんなあ」
「まあでも、恋人の頼みですからね。夜は空けておきましょう」
 ネズはにこりと笑う。あくタイプらしい笑みだったが、それよりもキバナは内容に気を取られたらしかった。
「いいのか?!」
 目を丸くしたキバナに、ネズはくつくつと笑った。手の中の温かいミルクティーが心地良かった。
「もちろん。だから、おまえこそ、キャンセルなんて格好悪いことしないでくださいね」
「当たり前だろ!」
 やったと無邪気に喜ぶキバナに、ネズは肺の中の冷たい空気が、いつの間にか温かくなっていたことに気がついたのだった。


12/25 22:07
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