◎花火と微睡み


グラハウ/OPおめでとうございます!/アニメの夢を見たハウの話


「バトルしようぜ!」
「もちろんー!」
 見知らぬ男の子に言われて、おれはフクスローを呼ぶ。ばさりとおれの前に立った相棒に、男の子はそれならとモクローを繰り出した。
「一対一でどうー?」
「おう!」
「じゃあ、いくよフクスロー!」
 空へ飛んでと指示すれば、フクスローは翼を広げて飛び上がった。モクローもすぐに飛び上がり、追いかけてくる。
「速いねー! でも負けないよー? いっけー!」
 ああ、楽しいな。花火が弾けるような心地に、おれは声を張り上げていた。


 目を覚ます。勿体ないなと感じた。普段とは違うモーテルの部屋の中。淡い青をしたカーテンの隙間から覗く外を見ると、まだ朝日が遠い時間のようだ。薄暗い中で瞬きをする。ふと、隣に温もりを感じて、おれはゆっくりと寝返りを打った。
 そこには昨晩と同じようにおれを抱きかかえて眠るグラジオがいた。よく眠っているけれど、おれが動いたのは分かったらしく、白いシーツの中でおれを抱え直していた。実は起きていそうだけれど、そんなに器用な人ではないかとおれはグラジオの胸に額を擦り寄せた。寝間着越しの体温が心地良い。楽しくて仕方がない夢とは違う穏やかな時間に、こういうのもいいなあと思った。あれ、でも。
「夢ってなんだっけ……」
 とても楽しい夢だった。目覚めるのが惜しい程の夢だった。だけどもう記憶は薄くなっていて、輪郭すらあやふやだ。でも、楽しかった気持ちだけは鮮明に思い出せるのでタチが悪い。
 今すぐ寝たら同じ夢を見れるのだろうか。そう思ったところで、グラジオがうっすらと目を開いた。
「グラジオ、起きたのー?」
「……まだ朝には早い」
 ぐっと腕に力を込められる。苦しいよと伝えたのに、力を緩めてくれなかった。
「朝になったら、修行に付き合う」
 だから今はこのまま。そんな事を眠たげに言ったかと思うと、グラジオはまた寝てしまった。
 おれの意思はどこにあるのだろうか。だけど修行に付き合ってくれるのは嬉しいのでおれも眠ることにした。

 鳥の声はまだ聞こえない。あまりに静かな夜と朝の間は、きっと考え事に最適な時間なのだろう。でも、それよりも目の前の大切な人と過ごす時間を増やす為に目を閉じる。

 いつかあの夢のように楽しい時間が過ごせたらいい。それはそんないつかの話だから、今はあなたのそばに居られたら、それでいいのだ。


10/13 01:21
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