◎空の写真


グラハウ


 空が青い。
 写真の中のリリィタウンは十年前で止まっている。

 勝手知ったるハウの家。戸棚に飾られた写真に、グラジオは目を止めた。ハウと特別親しくなってから何度も訪れた家なのに、初めて見る写真が飾られていたのだ。勿論、グラジオが見たことある写真なぞはハラの家にある数ある写真のうちの数枚だろうが、グラジオは写真立てに飾られる数枚が選び抜かれた写真たちだと察していた。
 だからこそ、グラジオにはその写真が異質だと分かる。

 青空の写真だった。青空に千切れた綿のような雲がある、ありふれた空だった。人物はいない。ポケモンもいない。空に雲が少し浮かぶだけの、どこに注目すればいいのかも分からないような写真だった。
「それね、おれの写真なんだー」
 飲み物を持ってきたハウがグラジオに告げる。からりころりと氷の音を鳴らしながら、ハウは小さな机にレモン水を置く。夏だからねと、言う。
「じーちゃんはあんまり好きじゃないみたいだから、今だけねー」
「そうなのか」
 グラジオは瞬きをする。写真は最近のものなのか、それとも大事に仕舞われていのか。色褪せることなく、美しいアローラの空をしていた。
「カメラはとーちゃんの。撮ったのはおれなんだー」
 あははとハウは笑う。グラジオはその声に眉を寄せた。
「もう十年ぐらい前かなあ」
「そんな頃にカメラを触ったのか」
「間違いだったんだよー」
 うっかりカメラを倒した時に、偶然写ったのだとハウは語る。
「写真は撮った人のものだからって、とーちゃんがくれたんだよー」
「ハラさんは?」
「おれのものなら仕方ないってさー」
 本当は見るのも苦しいのだろうと、ハウは目を伏せて語る。そんなことを哀を漂わせながら言うものだから、グラジオはそれならと口を開く。
「ハウはどう思っているんだ」
 ぱちり。ハウの丸い目が瞼に覆われ、開かれる。おれは、そう言いかけて口を閉じた。
「……大事だと思うよー」

 そうして、今日は何をして遊ぼうかと楽しげに言ったハウの目にはもう哀愁は無くなっていた。グラジオはしばらく黙っていたが、やがてバトルをしようと立ち上がった。
「今日は晴れているから、丁度良い」
「ふーん? 負けないよー!」
「オレこそ負けないからな」
 写真は先に片付けておこうと、グラジオは静かに写真立てを伏せたのだった。


08/21 17:16
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