◎おやすみ


グラハウ/おやすみ


 月が照らす。
 人の腹が恋しいのだと言う。母の胎は、揺り籠より穏やかなのだという。オレはそっと目を閉じる。母は、オレが胎内にいる時、喜んでいたのだろうか。
「グラジオはよく知ってるんでしょー?」
 ハウはサイコソーダを片手に語った。まさにその通りだと、オレは肯定した。オレは母の愛を疑ったことはない。その愛が正しいかどうかは、疑ったものだが。
「愛って正しいものなのー?」
 不思議そうに、ハウは首を傾げた。
「人に特別な感情を持つのは、正しいことなのー?」
 ああ違うかと、ハウはさらりと解いた髪を、シーツの上に広げた。いつものお泊まり会だと明るく笑っていた少年は、静かな夜の語らいを存外好んでいる。
「愛に、正しいも間違いも、あるものなのー?」
 それって、ナンセンスってやつじゃないかな。ハウは微笑み、オレの頭を撫でた。
「おやすみ、グラジオ。明日になったら、きっとお月様が悪夢を連れ去って、お日様がアローラを照らすよー」
 だから、おやすみ。柔らかな手が、最後にオレの頬を撫でてから、離れていった。


07/18 00:23
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