◎ご め ん ね


イリミヅ


 助けてって言ってほしかった。だけど、それを言ったらもう、彼女は彼女ではなくなるのだろう。主人公であると彼女は語る。主人公は孤高の人でなければならない。人懐っこい笑みを浮かべて、皆を助ける存在でなければいけない。そんな鎖で雁字搦めになって海の底に溺れていくような生き方は、あまりに、あんまりなことだと思った。

「どうして助けてと言ってくださらないのですか」
 一度だけ、そう問いかけたことがある。すると彼女は、言った。
「私はみんなを助けたいんです」
 助けられるより、助けたい。だから私は戦うんです。ミヅキさんはそう言うとにぱっと明るく笑って、茂みの洞窟からハウオリまで走りませんか、きっと楽しいですよなんて言うのだ。
 そんな言葉が欲しかったわけじゃないのに、頷くしかなかった。胸に広がる虚無感がきっとミヅキさんの答えだったんだろう。
(貴女は、何があっても助けを乞うてはくれないのでしょうね)
 それが虚しくて、悔しくて、でもポカンを心の中身が空っぽになったようだった。

 だから、そう、ここまできてやっと自覚したのだ。
(ミヅキさんが好きです)
 全部、全部すきだから、私はこんなに空虚な気持ちになってしまう。何もかもができてしまうから、私はこうして悔しくてを握るしかない。

 だから、未来を語ろう。いつか、チャンピオンの座から降りたらきっと隠居生活みたいなことをするだろう。その時に押しかけて、同棲にこぎつけてしまいたい。そうしたら、ミヅキさんとの優しい時間を作れるだろう。それがあまりにも幸せな空想で、嫌になってしまう。

 やっぱり現実は現実であって、空想は空想である。未来なんて何一つ分からなくて、少しだけ苛立った。
「イリマさん?」
 どうかしましたか。そう言われて、ハッとして笑みを浮かべた。
「大丈夫です。バトルしますか」
「勿論です! よろしくおねがいします!」
 その満面の笑みに、今はこれでいいかなんて我ながら簡単に満足してしまったのだった。


03/18 01:42
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