◎崩壊の日


グラ→←ハウ


 最終結末はきみの手で。
 例えばここにあった幸福が崩れて行く始まりの瞬間とか、例えば当たり前の日常が壊れていく始まりの音とか。そういうものが見えたとしたら、世界はもっと生きやすいのかもしれない。ライチュウ、きみには見えてるのかな。そう言って彼の瞼をなぞれば、ぼくには見えないよと言われた気がした。
 おれにもそう言ったものは見えない。だから想像を働かせて、未来を感じて、危なくなったら引き返すのだ。それはおれが生きていくための術の一つで、心の防衛機能だった。精神が狂ってしまわない為の、大切な機能。
 それがグラジオを見て叫ぶのだと気がついた時の、おれの絶望を誰がわかるというのか。グラジオのことが大好きで、ずっと一緒にいたくて、ご飯を共にしたくて。そう考えていたのに、グラジオを見ていると時折視界が滲んで、きいんと耳鳴りがする。それは幸福が崩れて行く始まりの瞬間や、日常が壊れて行く始まりの音とよく似ていた。その視界と音が怖くて、でもそれでもおれはグラジオと会うことをやめられなかった。どうしようもないなと思う。崩壊は目の前だと勘が告げてるのに、おれは今までみたいに逃げたり、目を逸らさないでいる。とても賢いとは言えない選択に、乾いた笑いが溢れる。
「だから、ねえ、グラジオー」
 今日はとびきり視界が滲んで音が高い。きっと崩壊は今日が始まりだから。
「最期はグラジオの手がいいよー」
 どうか最終結末はあなたの手で。


12/20 17:25
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