◎ウツロイド


イリミヅ
作業用BGM→雫(スキマスイッチ)


 傷を負った女の子がいた。その子を助けようとした女の子がいた。それはあまりに哀れな姿だと、聞いた。
「その子はどうしたのですか」
 彼女の前に立つ、白いポケモンを見る。クラゲのような、半透明の、見たこともない生き物。ウルトラビーストの一種だよ、彼女は言った。
「ウルトラビースト?」
「そう、この世界の先、ウルトラホールを通った先にいる、生き物」
 モンスターボールに入るから、きっとポケモンだよと彼女は笑った。その笑みが哀愁と痛みに塗れていて、ぎゅっと手を握りしめた。
「そんなポケモンは見たことありません。害はありませんか」
「神経毒を持ってるみたい。でも、この子は大丈夫だよ」
「本当に?」
「本当に」
 イリマさんは心配性だねと彼女は微笑んだ。その目の下の隈はなんですかと聞きたくて、聞けなかった。
「最近、アローラを荒らしてたけど、みんな捕まえたから大丈夫だよ」
「それは」
「それにこの子たちに悪気はなかったの。ただ、見知らぬ土地に驚いて、攻撃してしまっただけ」
 ね、と彼女はウルトラビーストだという生き物の手を撫でた。嬉しそうに跳ねる生き物に、言い知れぬ嫌悪感を抱いた。本能が、その生き物はここに在るべきではないと叫ぶ。
「返してきたりはしないのですか」
「どうして?」
「その生き物は、アローラの生き物ではないのでしょう」
「そうだけど、私がゲットした子だから」
 この子たちの居場所になってあげるのと彼女は微笑んだ。何にも不思議なことじゃないよと笑った。それが、どうにも不快だった。知らない一面があることが、嫌だった。
「全てが、終わったのでしょう」
「うん。このアローラはもう、危険じゃないよ」
「じゃあ!」
「でも、この子たちは返せない」
 私がゲットした、その責任を果たさないとと彼女は、知らない顔で笑っていた。


11/09 16:46
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