◎ペチュニア:あなたと一緒なら心が和らぐ


マツミナ


 そこにいた幸福は。
 眠れない夜だった。私はそっと寝床を抜け出すと、外へと出た。マツバの家に住むようになってから、久しぶりの眠れない夜だった。満月が空に浮かび、ゲンガーやゴース達が木陰で遊んでいる。フワライドがふわふわ浮いていたかと思えば、小さなフワンテを横に連れていた。いつの間にか新入りが増えたらしい。
 どうせ眠れないのなら何か仕事でも片付けるかと思ったが、きちんと眠れてないないのに仕事なんてできないだろう。さてどうしたものか、そうしているとふと温かなにおいがした。辿るように家の中を歩けば、キッチンによく見慣れた背中がいた。
「マツバ」
「ん、ああ、ミナキくんか」
 ホットミルクでも飲むかいなんて、どうせ全て見透かしてるのに私に聞くのは、きっと彼の優しさだ。

 温かなホットミルクにはあまいミツ。バニラエッセンスも垂らしたんだとマツバは自分のマグカップを手に語った。私の手元と彼の手元にあるマグカップは私がこの家に住むようになってから買ったもので、お揃いのチェック柄の色違いだった。彼は赤を、私は水色を。夫婦茶碗ならぬ夫婦マグカップかなんて笑ったマツバに、ここはデパートだから場所を考えろと呆れたのは極めて最近の出来事のようだ。

 ホットミルクを一口飲むと、ほっと温かな息が漏れた。温かい飲み物は安心するよね、そう言ったマツバにそれもそうだがと、私は苦笑した。
「キミがいるから、私は安心できるんだ」
 だからまた眠れない夜が来たらキミの隣に行ってもいいかと、噛み締めるように言えば、マツバは勿論歓迎するよと微笑んでくれた。


09/24 23:35
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