◎木陰にて貴女を想う@悲哀風味


トウコベル/主人公なトウコさん/一途/悲哀風味


 優しい日差しがまぶたの向こうにあった。目を開けばその日差しが手に入るのに、あたしがそうしないのは、きっとその光が逃げてしまうから。
 英雄になったトウコはあたし達の前から姿を消した。お母さんにもずっと連絡をしていないみたい。寂しそうなトウコのお母さんを見てあたしは心が痛くてたまらなかった。ねえトウコ、あなたは今どこにいるの。誰かに連絡をしてほしい。誰かに元気だよって明るく伝えてほしい。あたしじゃなくてもいいから、せめて、誰かに。
 トウコは温かな光のような人。みんなはトウコはもっと強く輝き闇を明確にする光源みたいな人というけれど、あたしにはそうは思えなかった。だってトウコだって悩んだんだ。何が正義なのか、正解なのか、目指すべき場所はどこか、誰を止めるべきなのか。全部迷って、誰もが頼るから弱音を吐くことができなくて、体に鞭を打ってイッシュを駆け抜けて。その姿が影を明瞭にする光源になんて思えない。もっと淡くて優しい温かさがある。穏やかで優しい微笑みを浮かべるトウコは、傷ついた人にしかない優しさを確かに持っていた。
(そう言ったら、トウコはベルにこそ相応しい言葉だ、なんて言った。)
 トウコは自分を許せたのだろうか。消息を絶ってしまったトウコにはもう聞けない。いつか、また会えるのだろうと思わなければ寂しさと虚しさと痛みでどうにかなってしまいそうだった。
(会いたいよ、トウコ。)
 願わくば、あの温かな微笑みを浮かべてますように。


11/12 01:29
- ナノ -