◎海


マツミナ


 海である。
「秋なのに……。」
「休みがやっと取れたからなあ。あ、むこうにポッポがいるぜ!」
 ミナキ君はそう言って駆け寄ろうとしていた。それを止めて、とりあえず海水浴はできないのだからと散歩を再開した。
 ミナキ君は、スイクンがあの子を選んでからエンジュにある大学で講師をするようになった。そして同時に僕の家に同居をし始めた。最初は驚いたけど、なんだかんだで今までも泊まることが多かったのですぐに慣れた。まあ、しばらくは次の出発はいつだっけとか思ってたけど。
 エンジュでの生活、しばらくはミナキ君も僕も何でか忙しくて、休みが取れない日が続いていた。そして今日、何か口裏でも合わせたかのように二人揃っての休みができたのだ。
「エンジュの人たちの情報網からすると可能性が高くてこわい。」
「どうかしたのか?」
「いや、なんでもないよ。」
 ふらふらと歩きながらとりとめのない会話をする。穏やかな時間が心地良くて、心が解けていくのが分かる。やっぱりミナキ君と一緒にいると落ち着くなと思っていれば、ミナキ君が似たようなことを言うものだから笑ってしまった。少しだけ慌てたように頬を染めたミナキ君に、何でもないよともう一度告げて歩くのを再開した。
 ポケモン達はここに着いた時にはみんな外に出していて、離れているけれど彼らは何かあれば必ずすぐに駆けつけてくれるから心配はなかった。信頼しているということである。
 潮風の中、ミナキ君はやけに楽しそうだ。何故かと聞けば、海は久しぶりだと笑う。
「湖にはよく行ったんだが、海は本当に久しぶりなんだ。この潮風も、何だか面白いぜ。」
 明るく笑うミナキ君に安心して、僕はそうだねと言う。
「僕も久しぶりだよ。エンジュからあまり出ないし。」
「エンジュ以外でマツバを見かけたらきっととても驚くぜ。」
「だろうね。」
 僕もそう思うよなんて言って、ふと黒い影。ゲンガーだ。ミナキ君の隣にはゴーストが見えて。そうだ。
「ミナキ君、バトルしようよ。」
「お、珍しいな。乗った!」
 お互いに楽しいバトルをしようぜと言うミナキ君は潮風の中で海を背景にもう楽しそうにしていて、やっぱりきみも僕も一人のトレーナーだなと笑みが零れたのだった。


09/11 17:45
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