◎小鳥に練習は与えられず


トウトウ


 選ばれし英雄だとか、鏡合わせだとか、出会うことが運命付けされてなかったとか。私たちに必然なんてなかったこと、それら全てを投げ出してしまいたい。差し出してくれたあなたの手を取って、握って、このバトルサブウェイのマルチトレインから抜け出してホームを駆け抜けて、永遠かと思うような階段を登って地上の世界に足をつけたい。たとえ、それを幾多もの障害が阻んだとしても、叶えたい。
「障害物なんて僕が崩して道を作ってあげる。邪魔をする人たちは僕がバトルで打ち負かしてあげる。きみのその手を引っ張って、きみを自由な世界に引き摺り出してあげる。僕はトウコの存在を否定なんてさせない。絶対に。」
 そう言ったあなたの目はバトルの時とは違う風に真剣で、その瞳に安心する。同じ色の瞳、どこか似ている風貌。それが戒めだとしても、柔らかな親近感と何よりの愛情を生み出した。
「私をここから連れ出して。」
 差し出された手を握りしめて告げた言葉は震えてなんかいない。例えこの先がどれだけ辛いことばかりだろうとしても怖くなんてなかった。
「トウヤの見た世界を、私も見たいの。」
 握り返された手は私だけが知る男の子の手をしていた。


07/31 00:16
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