◎大人なんかになりたくないや


マツミナ/大人なんかになりたくないや


 ジョウト地方とカントー地方を駆け回る。かの北風を追い求め、出会えたり出会えなかったりを繰り返しながらいのちを燃やしていく。他人から見て成果が得られない行為であり、確かにいのちを削る行為なのに、私はどうにも無駄には思えなかった。追いかけているだけで幸せなのだ。かの北風を思うだけて幸せなのだ。それをどうして無駄だと思えるというのか。
「相変わらず一筋だね。」
「それはマツバもだろう。」
「そうだね。」
 マツバが目を伏せるのを見ながら、私は言った。
「幸福は人それぞれなのだからな。」
 私も、きみも、自分らしい幸福を知っているのだから、それだけでとても恵まれているのだ。そしてきっとそれを仕組んだのはかの神々なのだから、これほど完成されたパズルはないのだろう。
「哀れだと言われても?」
「ああ。そんなことは言わせておけばいいんだぜ。」
「そっか。そうだね、その通りだ。」
 マツバがふわりと笑うので、私もニッと笑い返した。


06/29 21:23
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