◎灰まみれの種


マツミナ/灰まみれの種/ミナキ視点/タイトル意訳:きっと綺麗じゃなくても未来は輝かしくて。/サブテーマ:苦しみの果てに愛を羨む


 泥だらけの手があるとして、その手は本当に汚ないのだろうか。それを洗い落としてしまえば万人が綺麗な手だと言うだろうし、そもそも泥だらけだから汚ないとイコールになるわけじゃない。だから、この手は泥だらけだけど目一杯がんばった証なのだと胸を張りたい。泥臭くてきっと灰すら被る手だろう。でも、それでも汚ないと思いたくないのだ。
「綺麗好きなのにね。」
「それとこれとは話が違うんだぜ。」
「そうかな。」
 曖昧に笑うマツバに私は手を突き出す。両の手を広げてマツバの前に差し出した。ほら、私の手は埃まみれだ。
「手袋をしているのに。」
「関係ないだろう。」
「そうかな。」
 やっぱりマツバは曖昧に笑っていて。関係ないだろうに、どうしてそんな顔をするのだ。
 白熱灯が揺れる。風だ。この風は開けっ放しの縁側への引き戸が原因だ。湿った空気が一掃されていく気がして気分がいい。私の手を覆う灰やら埃や土を吹き飛ばしてしまいそうだ。
「君の手は綺麗なのにね。」
「そうだろうか。」
「そうだよ。」
 マツバの金髪が風に揺れて、そういえば今日はヘアバンドをしてないな、なんて。紫色の目が曲がって何も映さない曖昧色になっていて。
 寂しい。
「マツバ、私の話を聞いているか。」
「うん。聞いているよ。」
「私たちの会話は噛み合っているか。」
 ぽろり、零せばマツバはやっぱり曖昧色に笑う。
「それは、君次第だね。」
 泥と埃と灰とその他エトセトラでまみれた手を差し出していることがとたんに怖くなって、引き寄せようとすればマツバが私の手を握っていた。強い力で握られて痛い。なのにマツバの顔はやっぱり曖昧顔で。
「ミナキ君は種だよ。」
 種だと。
「灰を被った種、やがて美しい芽を出すんだ。」
 だからおやすみ、と。


06/17 01:27
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