◎これは呪いよ、神様からの


マツミナ/テーマ:魔法の言葉で雁字搦めにして。/ほぼ足し算


 その言葉で首が絞まるかのように。
 久しぶりにやって来たミナキ君は、手土産の熟れた柿を手に笑っていた。だから僕も笑って彼を迎え入れて、柿を受け取って、お茶を淹れた。居間で世間話をしながら、緑茶と共に茶菓子をつついて、そしてとうとうミナキ君は言うのだ。
「今日はスイクンの現れたという泉を新たに見つけたんだぜ。」
 場所はこのエンジュから程近いのだと弾むような声で言うミナキ君は心の底から楽しそうで、その口がスイクンの単語を吐く度に黒い靄となってミナキ君の白い首にまとわりつく。
「スイクンが現れたに相応しい、美しい水をした泉でな。」
 黒い靄が少しづつ濃くなる。薄墨に墨をぽとりと垂らすかのようなそれは小さな変化だけれど、大きな変化だ。ミナキ君が吐き出した黒い靄は、ゆっくりと白い首に溜まっていく。近くにいたゲンガーが顔を背けた。ゴーストタイプは人の負の感情を好む傾向がある。だからだろう。ミナキ君の黒い靄は決して良いものには見えない癖に、ミナキ君の最も美しい感情を根源としている。
 憧れ、憧憬、崇拝。全てが美しいものなのに、吐き出したそれは何とおぞましい気配を纏っていることか。だから僕は聞くのだ。
「ねえ、最近何かあった?」
 ミナキ君はそれに驚いてから、隠し事は出来ないなと嬉しそうに語るのだ。
「スイクンに会えたんだ。」
 会えただけだけれどと笑うミナキ君の顔は眩しく煌き、靄はより黒くなった。


05/03 00:34
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