◎希望を願っていたのにね。


マツミナ/副題:へたくそ現実逃避


 アイスクリームを買って食べよう。バニラも抹茶もいいけれど、今はチョコレート味を食べよう。泥みたいに後味が残る甘さに一心不乱に立ち向かおう。そうすればきっと気分転換になるのだ。
「一緒にサイコソーダなんてどうだ?」
「そりゃいいね」
 甘ったるくてぴりっと舌が痛い組み合わせが、きっと僕らを関心のなかった世界へ誘(いざな)ってくれるのだ。
「今の僕はここじゃないどこかに思いを馳せたいからね。」
「同意見だぜ。」
 にっこり笑うミナキ君の足元には水たまり、指摘する前に彼は軽く飛び越えた。数歩駆けて、くるりと振り返った。初夏の爽やかな風は彼の求める北風とは全く違うし、ずいぶん前に雨が止んだ晴天の空には虹なんて出そうにない。
「置いて行ってしまうぜ、マツバ。」
「はは、酷いなあ。」
 水たまりを飛び越えて、向かう先は街の外れ、馴染みの薄い洋菓子屋。アイスクリームが美味しいかどうかなんて知らないし、そもそも置いてあるかも知らない。けれど、それでもいいのだ。口実なんて何だっていいのだから。
「午後も晴れるそうだね。」
 伝えればミナキ君は明るく笑う。
「これから夏だな。」
 まだ穏やかに降り注ぐ太陽光が、肌を焦がすようになるのはそう遠くないのだ。


04/14 01:26
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