◎眠れない夜


ダイディア/ダイゴ視点


 眠れない夜もある。それは誰にだってあって、きみにだってあるのだ。月光の下でその身体を煌めかせ、きみは目を伏せがちにして椅子に座っていた。どうしたのと声をかけることが憚れる(はばかれる)ような神聖な絵に見えて、僕は静かに息を吐いた。美しいという言葉が陳腐に思えて、でもそれより明確な言葉を僕は思い出せなかった。只々美しいきみは、きっと故郷を想っているのだ。哀愁の色を乗せた瞳がこちらを見ることを望み、僕は意を決して近寄った。きみはすぐに気がついて顔を上げ、その瞳に僕を映したのだ。嗚呼、何たる幸福だろう。手の届かぬ孤高の王の目に僕だけが居て、王たるきみが僕に声をかけるのだ。畏れ多いだけじゃない。指の爪の先から頭のてっぺんまで、幸福という液体で埋まってしまったようだった。この幸福を何と例えられようか。否、そんなことは出来やしないのだ!
「もう、眠ろうか。」
 頷いたきみを引き寄せて、その背を撫でれば摺り寄せられる此の世で一番美しい身体。孤高の王であり、何よりも美しく、今は故郷を想ってその目に哀愁の色を宿す。そんなひとが僕の腕の中、擦り寄って来てくれる。優越感だろうか。崇拝だろうか。もう何もかもが混ざり合って、夜の色だ。
「おやすみ、ディアンシー。」
 目が覚めたらきみは一番に僕を見るのだろう。


02/24 02:16
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