◎夢を見た@大包平@過去捏造


大包平/モブ刀視点/過去捏造


 夢を見たやうな気がするのです。
 それは幼子の読む夢でした。隣に座るその方は、お家で一番の待遇を受けておりました。丁度通りかかった際に主が気に入られなければ、私は会うことが無かったでしょう。
「そこなお前、外の話をしてみせよ」
 さあさ、さあさ。幼いその方は澄み切った鋼色の目をきらきらと輝かせて仰るのです。しかし私はしがない侍の刀。主の為に立派に役目を果たしてきた心積もりですが、果たして私の話をこの幼い刀様が喜ぶかは分からないのです。
 もし、話が面白くないと私を切って捨てらたら、主の元に帰れなくなってしまいます。それがたまらなく恐ろしく、私の口は一文字になってしまいました。
 しかし、幼子はキョトンと丸い目をして、うんと考えてから、ぴんと何かが思い当たったらしいのです。
「もしや、口が聞けぬのか」
 人なら兎も角、付喪神にはそういう物が多いものだ。幼子は良い良いと笑って、ならば俺が語ろうと両手を広げた。
「この倉の底には油がある。その中に俺は浸されているのだ。愛されるのは悪くないが、話し相手がいないのは詰まらん。たまたま今は皆が眠っていたからな、お前がお前の主と共に此処に来て、感謝している」
 外の物ならば、話すことは沢山ある。幼子はそう言って、広げていた手を戻したかと思うと、瞬きの間にふわふわと蝶を放っていた。
「この蝶は勝手に出てくるんだ。どうやらお前のことが気になるらしい」
 まあいい、話すことは沢山ある。幼子はにぱっと笑った。
「その前に名乗ろう。俺は──」
 その名を、私は一生忘れることがないような気がしたのでした。



09/29 22:20
- ナノ -