◎はらぺこうぐいす@鶯丸


鶯丸/お腹が減った鶯丸さんが大包平さんの帰りを待つ話


 はらぺこのむし。
 腹が減った。鶯丸は畳の上で茶を啜る。空腹感が薄れるが、根本的な解決にはならない。しかし、食事か。鶯丸は考える。腹が減っても食事をしない理由があった。単純に、あと一刻もすれば縁の深い刀が本丸に戻るのだ。その名を大包平という。
「……」
 大包平は朝餉を食べた後、食材の買い出し班に捕まり、そのままついて行ったのだ。堀川や加州など、この本丸の厨に出入りする刀たちで組まれた班だったので、大包平もその一員として素直について行ったのだろう。なお、鶯丸は付いてこなくていいと門前払いされた。扱いが悪いが、鶯丸は普段厨に立たないので、食材の目利きも貯蔵庫の中身も見当がつかない方の刀なのだ。そんな刀が行っても邪魔なのかもしれない。観察ができないのが気にかかるが、鶯丸としては留守番も悪くないので気にしていない。
 ただ、昼餉を食べるなら大包平と共に食べたい。しかも、買い出しから帰ったらおそらくその場の流れで大包平も厨に立つだろう。大包平の手製の料理は、同郷の鶯丸の舌によく合う。旨いものが食べられるのなら、帰りを待っていたいだろう。
 この本丸では全ての刀に厨当番が回ってくる。鶯丸はいつも当番で組んだ刀に任せて手伝いに徹するので、手伝いはできる。皿洗いや芋の皮むきなどは慣れたものだ。大包平の手伝いをした事はないが、厨に手伝いに行くのもいいかもしれないとは思った。
 それにしても空腹だ。鶯丸はごろりと畳に転がった。その上、暇である。鶯丸は暇が苦痛ではないが、腹が減っていては話が変わる。この鶯丸は空腹感が苦手で、茶を飲むと言っては菓子をつまむ質だ。その上で、食事はしっかり摂る。平野には、これが人間だったらすぐにふくよかになっていましたねとは、何度も言われた。腹が減っては戦ができんだろうとその度に言ってはいたが、そろそろ言い訳が苦しい。
「腹が減った」
 口にすると、空腹感が増す気がした。早く大包平が帰ってこないかと目を閉じる。瞼の裏に、太陽のような誇りの刀が立っている気がした。



07/16 22:05
- ナノ -