◎あなたにだけ教えるわ
貞愛
跳ぶ、走る、駆け抜ける。
「待てって、太鼓鐘!」
どうしたんだよと愛染が叫ぶ。だが、止まれない。早く、早く彼を連れていきたい。俺はぎゅっと愛染の手を握る。
丘を駆け上がって、眼下に広がる海を見る。夕日が沈むところだった。
「愛染にこの赤を見せたくてさ」
振り返ると、なんだそれと愛染が笑う。
「夕日ぐらい、いつでも一緒に見るぜ?」
「そうだろうけどよ」
俺さ、と続けた。
「明日、主さんに修行の許可を貰おうと思ってて」
夕方にはもう旅立っている予定なんだぜ。そう言うと、なあんだと愛染はくつくつ笑った。
「帰ってくるの、ちゃんと待てるぜ」
「そうだろうけど!」
「太鼓鐘は心配性だなあ」
ぱちんと、愛染の手が俺の頬に当たる。痛いってと言えば、痛くしたんだと胸を張られた。
「オレはぜってえ大丈夫。だから、太鼓鐘は安心して旅立てよ」
心配することは何もないのだと、愛染は明るく笑っていた。
05/16 20:40