◎貴方の前では言えないけど


鶴獅子/診断のお題をお借りしました


 あなたの前では言えないけれど。
 あなたの指先が俺の手の甲をなぞるのが好きだ。白くて細い、骨張った指先が、小さくカリッと俺の肌を掻く。俺はその動きにいつも驚くけれど、それはきっとあなたの言う良い驚きというものであって、不快なんてことはないんだ。
 あなたの唇が俺の名を形作るのが好きだ。声にしないで、唇の動きだけで俺を呼ぶあなたは、どこか秘密めいていて、俺は優越感を感じるのだ。俺とあなたの関係は隠し事でもなんでもないけど、それでも密やかにこの心の交流を深めていくあなたの姿勢は、俺にとってとても好ましいことだ。
 あなたの汗が俺の頬に当たるのが好きだ。獅子王、俺は疲れた。なんて畑仕事の後にもたれかかってくるあなたに、風呂に入ってこいよと言いながらも、二人でゆっくりと過ごす夕方が好きだ。夕餉の前、お腹が減ってるのに、あなたといるとご飯を後回しにしても良いかとすら思えてしまう。それはきっとヒトの身を持つものとして良いことではないのに、俺はただ只管に歓喜を覚えるのだ。

 あなたの前では言えないけれど、俺はそんなあなたが好きだ。

「獅子王、今日の夜食は大福でどうだ?」
「あんま夜食を食べると太るだろ」
「ひとつぐらい問題ないさ」
 楽しみだなあとあなたは笑った。



06/27 18:37
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