◎キクの信頼


実福/キクの信頼


 愛にならざるは狂気でありて、狂気ならざりしは愛と云ふ。

 からんからん。

おひるの放送です。きょうのメニューは……

 秋田の軽やかな校内放送が流れる。取り壊される予定だった木造の旧校舎を引き取った本丸は、痛んだ箇所を丁寧に直しながら、ありのままにそれを使って生活している。
「あ、きゅうちゃんおひさー」
「姫鶴くんこんにちは。こっちまで来るのは珍しいね」
 ここは理科室。大きな窓で光を取り入れ、植物を育てているここに、姫鶴が来ることは珍しい。ちょっとねと、彼は靴を鳴らす。
「ねえ、福ちゃんは居る?」
「福島ならいるよ。福島、福島ー」
 呼びかけると、理科準備室からひょいと福島が顔を出す。姫鶴は居たねえと呆れた。
「きゅうちゃんも福ちゃんも、ほどほどにしなよ。ごっちんたちが困ってるし」
「なに? どうかした?」
「そーいうとこ」
 実休と福島はキョトンと顔を見合わせた。

 ふたりきりで理科室に篭って、植物の世話をする。やることは沢山あるからと、実休と福島は決まって笑う。それをとやかく言うのは同じ光忠である燭台切や、長船の刀たち。そして、長船と仲が良い刀ぐらいだ。
 本丸も大所帯になって、旧校舎は随分と賑わうようになった。煤が飛ぶような、くたびれて、古臭かったここは、瑞々しく息をしている。
「福島、菊の種はどこだっけ」
「北の棚の、右隅ぐらい」
「あー、あったね」
 種を蒔いて、芽吹かせて、花を咲かせたら、種を収穫して。その繰り返しも、本丸が開かれてから随分と経つ。植物は生死を繰り返すたびに、その環境に慣れていく。
 きっと肉を持つものたちも同じなのだろう。
「実休は今日の夕飯に何を食べたい?」
 そうだなあと、実休は告げた。
「菊のおひたし」
「いいね、頼んでみよう」
 福島はくすくすと笑っていた。



04/29 22:06
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