◎髪が伸びた


燭福/様子のおかしいみっちゃんと福ちゃんの話/愉快な長船たちを添えて


「……なにしてるの?」
 第一声、遠征から帰城せし、暫定長兄殿。
「ほんとうにすまん」
 薬研が頭を下げた。後ろでは、床に垂れるほど髪が伸びた福島が困った顔をしている。そして、そのさらに後ろでは、ぱたぱたと走り回る長船の、否、長船たちの戦争が起きていた。
「髪を切るべきだよ!! 福さんにあれは邪魔!」
「わかってないなァ小竜! あれは美しいから写真にでも残すべきだ」
「謙信、いくぞ」
「あつき、たのむんだぞ! 福島さあん!」
「おっとさせないよ。俺はどちらでもいいけれど、審神者が写真及び髪遊びを所望だからね」
「髪の手入れならボクに任せて! おつうも協力してくれるって!」
「福島さん、こっちに来て、着替えよう? たくさん取り寄せたからね。やっぱり着物がいいよね」
「……様子がおかしい、ね?」
 そこで福島がぽろりと言った。
「実休兄さん、たすけて」
「任せて」
 実休はにっこりと笑った。魔王のような笑みであった。

 長船および審神者の暴走が止まった頃。福島はバグにより床まで伸びた黒髪をどうしたものかと持て余している。光忠部屋では福島と燭台切と実休が休んでいる。燭台切は服を諦めたものの、どんな髪型にしようかなと嬉しそうに香油をうすく垂らした櫛を使っている。
「ねえ、実休、髪を切ってもいいかな」
「えっなんで切るの?! こんなに綺麗な髪なのに?!」
「なんで燭台切が一番ショックを受けてるの?」
「わかんない。うう、とても動きづらいんだよお」
「そうだろうね……」
 福島が頭を揺らすと、さらさらと黒い髪が揺れる。燭台切があれこれと髪型を考えていた。実休は流石に長すぎるよねと、口を開く。
「折衷案なら、せめて腰までにするとか」
「長くない?」
「そんな!!」
「だからなんで燭台切がそんなにショックを受けてるの?」
 不思議そうな実休と、げんなりとした福島。そして燭台切はあれこれと長い髪を保とうとしている。
 そこで、あのね、と実休が言った。
「そんなに長いと戦で困るでしょう」
 兄らしい声音に、燭台切がしゅんと項垂れて頷いた。



04/29 21:17
- ナノ -