◎愛の花@福島+獅子王


福島+獅子王


 とうといかたの、ちをすうように

「福ちゃん、今いいか?」
 午後の微睡み。獅子王がひょいと顔を出す。福島は納屋の中で瞬きをした。
「どうしたんだい、獅子王くん」
「おやつの餡蜜を持ってきたんだ」
「ありがとう。もうそんな時間だったんだね」
 作業台の上を軽く片付けて、獅子王が差し出した二つの器を置いた。ガラスの器に冷えた餡子や白玉が盛り付けてある。
 季節は夏になろうとしている。この時期は異常気象が多い。納屋にも冷房が取り付けられていた。
「暑くなったら、ここはずうっと冷やさないとな」
 花に悪いだろう。獅子王が歌うように言う。そうだねと福島は微笑んだ。
「暑さで花はやられ易いから」
「鵺も冷えたところに居たがるんだ」
「それならこの納屋にも来ていいよって伝えておいて。俺は大歓迎だからね」
「お、ありがとな」
 福ちゃんは優しいな。獅子王が笑う。時折、思う。獅子王は太陽のように煌びやかなのに、その姿は夜にこそ映える。
 だったら、福島光忠はどの時間に値するのだろうか。
「鵺は宵闇のけものだ」
 やんわりと甘い食感。白玉の歯応え。黒蜜の甘ったるさ。それでいて、後に引くことがない。
「福ちゃんはおひさまだからなあ」
 でも、どこにいるんだろう。獅子王は楽しそうだ。彼にまちびとがいること、福島は察していた。それは、福島とて同じこと。
 まだ、政府が励起に成功していない、付喪神。
「いつか俺たちの在り方が交わったら、」
 それはとても幸福だろうに。そんな老いた響きに、福島は笑った。
「今こうして話しているじゃないか」
 ぱち。獅子王が目を丸くする。福島はそっと近くの花を手に取る。真っ赤なミニバラだった。
「これを部屋にどうぞ」
「え、わ、ありがとう?」
「バラは愛情だからね、あなたにぴったりだよ」
 誰よりも、誰かを愛するあなたに。福島の言葉に、獅子王はへらりと笑った。
「福ちゃんもやっぱり長船だなあ」
「当たり前だろ?」
 くすくすと笑い合うと、獅子王の鵺がぴょんと飛び込んできたのだった。



04/14 17:52
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