◎阿鼻叫喚


実福/阿鼻叫喚


「ふくしまあ」
「はいはい、なんだい実休」
 布団からズリ出てぎゅうぎゅう抱きしめてくる実休に、福島はぽんぽんと背中を撫でた。今日は本丸が冬景色である。曰く、審神者の体調不良である。
 審神者が風邪を引いた。成人が風邪を引くと大ごとになりがちである。政府からの使者も呼ぶ事態になったが、なによりも、本丸が豪雪となってしまい、物理的に本丸に人が出入りできなくなった。何振りかの刀剣男士については女性となってしまい、それぞれ仲の良い刀剣男士が精神的なケアをしている。
 実休と福島は幸い、女性とはなっていないが、それよりも、実休は寒さにひどく弱くなっていた。
「さむいよ……」
「そうだね。ほら、カイロ貰ってきたよ」
「ふくしまがあっためて」
「俺そんなに体温高くないだろ」
 なでなでと頭を撫でていると、実休は布団からもぞりと出てきた。
「うう、ふくしま、」
「なんだい」
「だっこ」
「いいよ、はい」
 ぎゅうぎゅうと抱きしめられる。これで暖を取れるのならと福島は放置していた。幸い、実休と福島は恋仲である。抱きしめられるぐらいなら何の問題もない。
「ふくしま、ふくしま、」
「はいはい、ここに居るよ」
「さむいと寂しくなるね」
 ぐずと泣き声が聞こえて、流石にギョッとする。ぐずぐずに泣き出した実休に、福島はあわあわと背中を撫でたり大丈夫だよと声をかけた。
 外は豪雪。吹雪いてすらいる。審神者の容態はまだ良くならないらしい。命に別状はないはずとは通達されていた。
「うう、ふくしま、ぼく、ぼく、」
「うん」
「ぼく、へんになった」
 ぐずぐずと泣きながら言うので、よしよしとまた撫でる。
「一時的なものだって。審神者の体調が戻れば直るだろ」
「ほんと……?」
「そうだろ」
 だから大丈夫。福島がはっきりと言うと、実休はようやく泣き止んで、ん、と頷いた。
「ふくしま、ありがとう」
「どういたしまして」
「ぼく、直ったらちゃんとふくしまにお礼するから、だから、」
 もうちょっと甘えさせて。そう言った兄であり恋仲の刀に、福島は勿論だと笑ったのだった。



03/15 13:37
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