◎おさそい


実福/おさそい/掌編


「福島あのね」
「はいはい、なんだい」
「不動くんが美味しいお饅頭をくれたから食べよう」
「それなら茶を淹れるか」
「僕が淹れるよ。とびっきりの薬草茶を作ったんだ。だから待っててね」
 実休はふんわり笑って、てこてこと給湯室に向かった。
 うーん、懐かれている。兄弟の範疇なのかこれは。福島は首を傾げる。光忠も呼ぼうかなあと思ったが、脳内の光忠が全力で拒否していた。そこまでか。
 花の図鑑を見ながら待っていると、薬草茶のふわりとした香りと共に、実休が戻ってきた。饅頭ももちろんある。
「美味しいお店のなんだって」
「へえ、よく分けてもらえたね」
「福島さんとどうぞ、だって」
「あ、そう……」
 不動くんは実休より実休の心の動きを知ってそうである。今のところ、たぶん無自覚に福島を優先させて、甘やかしているのだ。自覚させるべきなのか、福島には分からない。何せ、こう言った感情のしがらみに刀は詳しくない。一部を除く。
「あのねえ、福島、一緒の部屋にならない?」
「は?」
「僕はね、朝の福島と、晩の福島も独り占めしたいの。だめ?」
「だ、だめでしょうが」
 それは兄弟にしては言葉回しがおかしくないか。そうもやもやとしていると、実休がふわふわと笑う。
「朝目覚めたら福島がいたら、僕、とっても幸せだけどなあ」
「う、」
「寝る前に、おやすみって一番最後に言えたら、僕は嬉しいけどなあ」
「うう、」
 良心が痛む。でも、だって、そうだとしても。
「やっぱりダメだ」
 苦し紛れに言うと、実休はふふと笑う。
「でもね、審神者にはもう許可もらっちゃった」
「えっ」
「あとは福島がうんって言ってくれるだけだよ」
 すり、と頬を撫でられて、ちうと口付けられる。ああ、このお兄様は、なんて、なんて!
「この、ばか!!」
 許容量を超えた福島はスパアンッと実休の頭をはたいたのだった。



03/13 23:45
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