◎ゆめ
実福
闇の中、福島は立っている。人の声もしない、暗闇。福島はじっと立っていた。
「福島」
声がした。ここ、声が聞こえるんだな、なんて思った。
「福島、起きて」
いま、起きるよ。
目を覚ますと、実休が手を握っていた。ぽろりと、涙が溢れている。なに泣いているんだよと笑えば、実休はぎゅうと手を握り締めた。
「苦しそうだったんだ」
「俺が?」
「悪夢を見ているんじゃないかって、不安で、僕、」
夢を切れるわけじゃない。そんな逸話はひとつもない。実休は手を緩めた。
「福島がしんじゃうかと思ったんだ」
「俺たちは折れるしかないよ」
「違う、そうじゃなくて、」
僕の知る福島が消えてしまうんじゃないか、と。
「やだよ、福島、僕を忘れないで」
忘れないよと言うのは簡単だと、思った。でも、あまりにも軽薄だ。だから、そっと手を握り返した。
「俺はここにいるよ」
だから、怖がらないでおくれ。そう笑うと、実休はぽろぽろと泣きながら福島の手に縋ったのだった。
03/09 15:08