◎すき


実福


 ぱちん、ぱちん。鋏の音。
 福島の持つ鋏が奏でるそれを、実休は聴く。ぱちん、ぱちん。
「実休、暇じゃないか?」
 ふっと言われて、実休は首を傾げる。暇、とは。
「福島が花を愛でてる姿、すきだよ」
 大切にしていることが分かるから。そう続けると、福島は気恥ずかしそうに顔を背けた。
「福島?」
「恥ずかしいやつ」
「だめだった?」
 ねえ、ふくしま。そう告げると、彼は頬を染めて言った。
「甘ったるい声で呼ぶんじゃないの」
 甘ったるい声。実休はそんなつもりはないのだけどと頬を掻く。そして、ゆるりと言った。
「福島がすきだから、仕方ないよ」
「すっ、好いてるわけないだろ!」
 俺たちは兄弟なんだから。そう言う福島は辛そうで、実休ははてと繰り返す。
「僕らは刀だよ」
「そうだけど、でも、」
「僕は福島のことぜんぶすきだよ」
 きっさきから、つまさきまで。
「食べちゃいたいぐらい、だいすき」
 ふわりと笑うと、福島は難しい顔をして、いつか分かるよと繰り返した。
「実休は俺が好きじゃない」
「すきだよ」
「勘違いだよ、そんなの」
「そうかなあ」
 どうしたら信じてくれる?
 その言葉に、福島は黙ってしまう。ああ、この顔は、答えを知っている。
「福島は優しいね」
 でも、僕はもう、すきになっちゃった。
「逃げないでね」
 追いかけてしまうから。
 福島はきゅうとくちびるを噛んでいた。



03/08 21:22
- ナノ -