◎きみのにおい


実福


 火傷の痕がある肌を撫でる。イバラのようなそれを、実休は己が手で撫でていく。福島が好む花のように、実休もまた、彼を愛している。
 愛の話。実休には遠い話。人間の器を模したこの肉の器にある、正常な愛欲を、実休は持て余していた。
「実休、ゆっくり呼吸して」
「ん、うん」
 肺を模した器官に、福島の匂いを吸い込む。柔らかな匂いに、ひどく胸が騒いだ。
「落ち着いたかい」
「うん、まだ」
 もっと、と縋れば、福島はまだ人の器に慣れていないのだろうと笑っていた。



02/26 20:53
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