◎びいどろ@審神者@死


ばぶし/限りなく足し算/さに+ぶしっぽい/審神者は死んでる


 光るようなびいどろの。
 優しさって何だろう。幼い主はそう言って死んだ。享年12歳。早すぎる死であった。
 後続の審神者がやってくるまでこの本丸は審神者無しで過ごさなければならないらしい。全振りもしくは一部の刀解、つまりのリセットとやらは新たな審神者が選択するらしい。それまで俺たちはただただこの本丸で暮らすだけ。そう、戦場に向かうことは禁止された。遠征もまた同じ。内番は本丸が回る程度に好きにやれと言われ、その他の雑用も同じく。そうして放置された俺たちは腑抜けになったように暮らしていた。
「優しさとは何なのだろうか。」
 主であった幼子の墓石を撫でながら兄弟の山伏国広はつぶやいた。墓石は同田貫と小狐丸が裏山から持ってきたもの。その墓石の下に幼子を寝かせたのは目の前の兄弟であった。
「どうすれば優しさになるのだ。」
 兄弟はこの本丸に最初に顕現した太刀であった。短刀と打刀を引き連れて、戦場を駆け抜けたそうだ。俺がやって来るまで堀川派は一振りであったという。
「主殿は優しさを欲しておられた。」
 親に捨てられた幼子であったという。初期刀に歌仙を選び、斬ってくれと乞うたそうだ。初鍛刀の短刀で腹を斬ろうとしたそうだ。
「拙僧は主殿を幸せにできたのだろうか。」
 兄弟を見て、理想の父を見出したという。短刀たちを見て、理想の弟を見出したという。
「拙僧は、主殿に優しくできたのだろうか。」
 俺が顕現した頃には幼い主の精神状態は安定していた。上質な霊力で俺を呼び出し、力になってくれと笑った。父の、兄弟が来てくれて嬉しいと。
「兄弟。」
「……主殿、拙僧はもう、」
 顔を俯かせた兄弟に、また声をかけた。刀は振り返らない。刀もまた、幼子を子のように思っていたからだ。
「俺が来た時、主は笑っていた。」
 息を飲む、わずかな音がした。
「主が最期にああ言ったのは、兄弟に優しさを返したかったんじゃないか。」
 優しさが与えられない幼少期だったという。優しさを、ここで初めて得たという。その戸惑いと幸福はどれほどのものであろうか。
「あんたはどうだったんだ。」
 兄弟の顔が上がった。墓を見、俺へと振り返る。下手くそに笑って、再び墓へと向いた。まだ震えていた。
「主殿の刀であった拙僧は、幸せであった。」
 あなたは優しかったと流れたのはきっとびいどろのような愛だ。



01/08 17:37
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