◎僕らは大人だった


燭福


 落ち続ける。
「蜂須賀くん、花瓶ある?」
「ああ、福島か。花瓶ならこっちの物置だよ」
「ありがとう。たまには硝子製を使いたくてね」
「そうなんだね。通りで歌仙に聞かないわけだ」
 蜂須賀に案内されて、福島は物置に入る。埃は少ない。まめに掃除されているらしく、福島は速やかに花瓶を選ぶことができた。
 自室に戻ると、燭台切がおかえりと微笑む。ただいまと答えて、福島は上機嫌に花を飾り始めた。
 部屋ごとに、一輪挿しを一つずつ。審神者から許しを得て、福島はせっせと毎日の世話をしている。花はいいよね。とてもいい。福島が楽しそうにするのを、燭台切は止めなかった。貴方らしいよ。ただ、それだけだった。
 嫉妬とか、ないの。加州に問われたことがある。嫉妬なんて、兄弟なのにないだろう。そう返したら、人間の心を模した“つくりもののこころ”は、存外複雑なんだよと言われた。
 本日の最後の部屋。光忠部屋の花を飾り終えた。
「硝子製の花瓶なんだね」
「そうかも。光忠を思い出して選んだんだ」
「僕を?」
「琥珀色の蘭だろう? この花が光忠みたいに見えてね。だったら飾りの少ない硝子の花瓶が良いなと思ったんだ」
「そうなんだ」
「光忠の目が好きだからさ」
「目だけかい?」
「そんなわけないよ。全部好きさ」
 いとしい弟。そう微笑んだら、燭台切はただ、合格とだけ伝えてくれた。



10/26 20:41
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