◎これでいい。


膝大包


 これでいい。
 大包平が机にうつ伏せて寝ていた。珍しいことだ。遠征帰りの膝丸は、着替える前に大包平の肩に薄い布団をかけた。
 時間は夜半。長引いた遠征から帰ったところだった。こんなに長引くことになるとは。膝丸は武具を外しながら、夜食はもらえるだろうかと考えた。
「……ん、膝丸」
「ああ、すまない。起こしたか」
「いや大丈夫だ。おかえり、お疲れ様だな」
「ただいま帰った」
 挨拶を交わすとやっと帰ってきた気がした。本丸を住み家として、何年経つだろう。まだほんの瞬き程度の時間だが、己を振るう戦場はあまりに濃く、鮮やかだった。
 何より、大切な恋仲が出来たことが、膝丸にとって不思議である。だが、大包平がいない世界は、もう想像もしたくない。それだけ大切な刀となった。
 刀が刀に執着するなど。そう考えてさえいたのに。膝丸は苦笑した。
「夜食を持ってくる。その間に風呂に入ってこい」
「いいのか」
「俺が言い出したんだ。構わん」
 大包平は部屋を出ていく。その後ろ姿に、思わず手を伸ばした。
 ふと、大包平が立ち止まる。
「どうした」
「いや、大したことではないんだが」
「はあ」
「こんな時間にきみを外に出したくない」
「は?」
 きょとんとする大包平の手を絡め取り、抱きしめる。ふわりとした体温と、彼の完全無比の肉体を感じる。ああ、夢みたいだ。膝丸は呟く。
「きみが好きだ」
 素直に口にすると、大包平は嬉しそうに揺れた。
「俺も好きだ」
 寝ずに待とうとするぐらい、好きだ。頬を染める大包平に、膝丸は愛されているなと笑った。



08/11 19:09
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