◎物分りが良いきみたちへ


膝大包前提髭切+膝丸


 物分りがいいね。そんなふうに、言われた。

「分別があるのは良いことだよ」
 でもねえ。髭切は穏やかに言う。
「少しくらいワガママでもいいんだよ」
 そうだろう。髭切の前で、膝丸はそうだろうかと首を傾げた。

 夏の本丸。煩いぐらいの蝉の声がする夕方。傾いた太陽光で真っ赤に染まった世界で、膝丸と髭切は対峙する。
 兄者の言うことはたまに分からない。だが、それを嫌とは思わない。膝丸はそう思う。
「こいびと、を放っておいていいのかい」
「大包平なら遠征だぞ」
「うん。そうだね」
 きみたちは本当に物分りが良い。髭切は困ったような顔をしていた。

 遠征部隊の帰還を知らせる笛の音がした。ああ、時間だ。膝丸は茶を淹れる。髭切は行っておいでと言う。
「俺は待つぞ」
「いいのかい」
「うむ。良いのだ」
 大包平は、必ず帰ってくる。そんな確信をこぼすと、おやおやと髭切は目を丸くした。
「惚気だ」
「そうだな」
「もっと言っていいよ」
「わざわざ言うものでもないだろう」
「それもそうか」
 ああ、愛しいおとうとが増えたなあ。髭切はそう笑っていた。
 トントンと軽い足音がする。大包平の足音だった。



08/11 15:51
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