◎二元論


さみくも


 村雲は本を読む。外つ国の翻訳本であるそれは、正義と悪の二元論を否定しがちである。自分は、正義なのか、悪なのか。勝つことだけが、正義の証明なら、村雲は正義なのか悪なのか。励起してから暫く経つが、分からなかった。
「雲さん」
 五月雨が図書室の入り口近くに立っていた。あ、と顔を上げる。
「雨さん!」
「図書室ではお静かに」
「あ、そうだね」
 カウンターにいる図書係の歌仙は、許容範囲だと雑務を続けていた。
 村雲は本を返して、五月雨の元に向かう。
「雨さん、今日は遠征じゃなかったの?」
「直前で部隊の変更がありまして。休暇となりました」
「そうだったんだ」
「はい。ですから、一緒に散歩でもしませんか」
「季語探し? もちろん。連れてって」
 へらと村雲が笑うと、五月雨もまた微笑む。そうして手を繋いで、二口で歩き始める。
 正義だとか悪だとか。本で否定された二元論をそのまま受け止めたくはない。でも、どうしてだろう。村雲が正義だろうと悪だろうと、本丸ではまるで、存在を強く肯定されている気がした。
 それは、五月雨がいるからだろうか。
「雲さん、良い天気ですね」
 明日もきっと晴れます。五月雨が笑っていた。その事実さえあれば、何もいらない。村雲はそうだねと返事をした。



07/29 15:06
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