◎木漏れ日


さみくも


 村雲は木漏れ日の下にいた。蝉の声、川の水音。川辺のそこで、ウトウトと船を漕ぐ。
「雲さん」
 五月雨が背中を優しく叩く。村雲は返事をするが、言葉にならない。どうしてだろうか、とても眠たかった。
「本丸に帰りますか」
「まだ」
「分かりました。雲さんの良いようにしましょう」
 明日は初陣ですから。五月雨は歌うように告げる。村雲はそうだったと目を伏せた。刀剣男士として己を振るう戦場はまだ知らない。だが、刀剣男士の本能が知っている。敵を斬り伏せろ、と脳髄をしびらせる。
 ああ、嬉しいな。村雲は夢心地に呟く。刀剣男士のあるべき姿は、戦場にこそある。村雲は胃が痛いとも思う。それでも、喜びが勝る。口では嫌がるが、夢心地の今はただただ、喜ばしく思った。
「雲さん、どうかご無事で」
 雨さんこそ。村雲がとうとう眠りに落ちていく。五月雨がしっかりと、村雲の手を握っていた。
 木漏れ日、蝉の声、せせらぎ。世界に二口っきりみたい。村雲はただ、明日の初陣を夢見ている。



07/26 15:42
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